一読者からのTikTok投稿がきっかけで異例の大ヒット!「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」スターツ出版インタビュー
たった一人の読者がTikTokに投稿した動画が反響を呼び、5年前の2016年7月に出版した小説「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」の売上が急増。
瞬く間に大ヒット作となったという、出版業界で未だかつてない現象について、出版元であるスターツ出版 出版マーケティンググループの米山様、藤田様にインタビューしました。
ターゲットをセグメントし、より読者に近いレーベルへ
スターツ出版は、読者に近いレーベルであり続けるために、小学生向けの児童文庫から、高校生・大学生向けのスターツ出版文庫、大人向けのベリーズ文庫、コミックなどターゲットをセグメントしていくつかのレーベルに分けています。そのため、他社のように何百万部という大ヒットは出にくくなりますが、読者の顔が良く見えるため、読者のことを考えながら作品を作り、届けることをモットーにしています。
バイアスのかからない、信じてもらえる情報とは
書籍のプロモーションに、以前はマスメディアに大規模な予算を投下してきましたが、時代の変化とともにプロモーションの主流が「クチコミ」に戻ってきているように感じています。
「テレビが見られなくなった」
「若者は検索エンジンを使わない」
という声を良く耳にしますが、これはいろんなことを象徴しています。
検索エンジンを使うと、SEO対策された記事や広告が上位に表示されるため、情報にバイアスがかかっていると感じてしまう若者の多くは、SNSから情報を得ています。
企業側の“売りたい気持ち”が強く出てしまうと、本当に良い物が表示されているのかがわからなくなるので、特に今の若者はバイアスがかかった情報を信用してくれません。
それならSNSで拡散する手法はどうかというと、今ではインフルエンサーの影響力も低下しつつあります。インフルエンサーが企業からの依頼でPRをしていることは周知されているため、このバイアスも避けながら情報を見ています。
これは若者だけでなく大人にも通じていて、例えば、旅先で美味しいお店を探す時、ネットで検索した情報よりも地元の人から直接聞いた情報を信じるように、結局は「クチコミ」なんですよね。
いつでもどんな時でも、信頼している親しい人からの「これが面白いよ」「これが美味しいよ」という情報を、シンプルに愛情を持って伝えることが唯一、信じられる情報提供の手法じゃないかと思っています。
そこを意識しながら、ターゲットごとにSNSのアカウントを開設してプロモーションをしています。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』を大ヒットへと導いた、たった一人の投稿
最初に動きがあったのは、2020年6月中旬ごろでした。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、2016年の作品で販売実績は約2万部でしたが、発売から4年経過していたということもあり、あまり動きがなく、在庫も多くない状態でした。
当時はリモートワークのため交代で出社していましたが、その日は朝から電話が鳴りっぱなしで、でもどうして急に注文が殺到したのか、理由がすぐにはわかりませんでした。
新卒で入社したばかりの社員が、もともとTikTokが大好きだったので、TikTokで作品を紹介している投稿がバズっていたことに気づいてくれ、そこでようやく原因が判明しました。
その投稿は、もちろん依頼したものではなく、インフルエンサーやフォロワーがかなり多い人ではない『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の一読者によるもので、純粋に「作品に感動して号泣した」「面白いので映画化してほしい」という気持ちが込められていました。
たった一人の投稿がここまでの影響力を与えることに衝撃を受け、さらに、その投稿に寄せられているコメントがみんな温かくて、コメントもさらにバズっているという状態にも驚きました。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の販売部数は、TikTokでバズる前は約2万部だったものが、今では18万部(18刷)にまで到達し、今でも毎月1万部の重版を重ねています。
TikTokから書店へ、すべてが繋がったプロモーション
SNSが書店の実売に繋がるという実感は、正直それまではありませんでした。それが、2020年6月の出来事があってから、「TikTokでバズった本は売れる」ということが書店や取次会社にも浸透してきて、今ではすごく注目されています。
TikTokでバズったことはプロモーションにも活用していて、TikTokのロゴが入ったPOPを作成して書店に配布したり、「TikTokで超話題!」という帯をいち早く付けるようにしました。
本の帯は、書店にとって唯一のプロモーションツールで、これまでは著名人が絶賛したという帯を付ければ本が売れていましたが、今では、著名人が絶賛したという帯だけでは売れなくなっています。読者がそこにバイアスを感じているからです。
その一方で、帯にあるTikTokのロゴは若い読者からの信頼を得ています。
TikTokのロゴを使った店頭ツールは、書店に来た読者の“符合”になり、TikTokで面白いと言われているものは、バイアス抜きで本当に面白いんだろうなと思われるようになりました。
これこそがTikTokの信頼感だと思います。
TikTokはみんなの“広場”。そこで情報提供するために重要なのは「想像力」
TikTokは、学校に例えると「教室での休み時間」のようなもの。そこは、仲の良い子たちが集まっていろんな会話や情報交換をする“広場”なので、大人が入り込んで情報を与えるのは難しいと思うんです。
大人から強要されることを嫌がる子たちに、企業という大人がどうやって情報を提供していけばいいのか、そこで重要になるのが「想像力」です。
彼らはどんなものに興味があって、何を提供すれば興味を持ってくれるのか、喜んでくれるのかを全力で考え、作るためには「想像力」が不可欠です。そして、作ったものを提供する時には、感情の押し付けをしないように気をつけています。
「号泣します」「感動します」というのは企業側の感情であり、その本を読んでどんな感情になるかは読者次第。感情を押し付けるのではなく、「面白いと思って作ったから提供するけど、判断するのは皆さんなので、面白くなかったら買わなくていいですよ」という相手に委ねるというスタンスでやっています。
家族や仲の良い友達に対して適当な情報を流さないことと同じで、こういうシンプルなことを守ることが信頼関係に繋がると思います。
スターツ出版のTikTokアカウントは入社2年目の藤田が運用していますが、彼自身、もともとTikTokが大好きなので、音楽選びから全て自分が良いと思ったものを投稿してもらい、上司からのダメ出しをしないようにしています。藤田が良いと思ったものに対して、彼より年を重ねている上司がダメだと思ったとしても、それが正しいかどうかは誰にも分からないからです。
TikTok以外のSNSは、会話をするツールから情報を得るためのツールへと立ち位置が変化しています。そんな中で、TikTokは情報を得るためのツールというより、楽しい気持ちになれるツールになっています。だからこそ信頼され、温かいコメントが多いのではないでしょうか。
だからこそ、「TikTokはみんなの広場」だという概念をずらさないようにしたいですね。
TikTokで紹介されればバズって売上が伸びるからと何かを仕掛けるのではなく、あくまでも、広場にいる読者に情報を提供するだけで、この広場を壊さないように守りたいです。
売りたいものではなく、読者が喜んでくれるような自信があるもの、自分たちが面白いと思ったものだけを提供するというスタンスを崩さないようにしたいと思います。
TikTokで作品がバズった影響で、スターツ出版文庫全体も人気に
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』がTikTokでバズってから約半年後の2020年の12月、今度は『交換ウソ日記』という作品で同じ現象が起こりました。
2017年に発売した『交換ウソ日記』はもともと売れている作品でしたが、2020年12月28日のTikTokの投稿がきっかけで、翌日の29日の売上が6倍に跳ね上がりました。売れていた作品が6倍になったので、それはもうすごい衝撃でした。
TikTokは一度バズると長く続くのが大きな特徴で、『交換ウソ日記』は今年に入ってからも順調に売れ続けています。書籍は、大きなニュースがなくてもずっと売れ続けることが重要なので、そのためにも中身を丁寧かつ真摯に作ることに尽きると改めて感じています。
そしてもう一つのTikTokの特徴として、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』『交換ウソ日記』という2作品に引っ張られる形で、スターツ出版文庫の他の6〜7作品が全て売れ始めているという効果を生んでいます。TikTokを通じて『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』や『交換ウソ日記』を知り、スターツ出版文庫が若者から支持されていると認識した状態で、書店にスターツ出版の本が塊になって置いてあるのを見るため、自然と他の作品も手に取ってくれています。群で売れるようになったので、仮にどれかの売上が伸び悩んだとしても、急激に売上が落ちないようになりました。
TikTokのコメントでは「スターツ出版文庫が大好きです」というコメントが非常に多く、それが一番嬉しいことです。読者に近いレーベルでありたいと思っているので、できるだけコメントは返すようにしていて、読者からの声に応えながら、彼らが何を求めているかを常に考えています。本当に面白いもの、そんなに本が大好きじゃない人が読んでも、満足していただけるものを作ろう。この人たちを裏切っちゃいけないという意識がさらに高まり、今まで以上に、いいものを作ろうという努力をしています。
そして今も、自分が本当に良いと思ったものを親しい友達に伝えるような、ワクワクする気持ちで本を作り続けています。
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