ミツカンのTikTokアカウントが急成長の理由 企業の壁を感じさせない動画の魅力づくり
ミツカンのTikTokアカウントが急速に人気を集めている。
時短・簡単・節約レシピ、旬の野菜を使ったレシピを紹介しているミツカンのTikTokアカウントは、ことし2月の開設から約8カ月で、フォロワー数は約9万6000、獲得したいいねの合計は約43万2000となっている。
TikTok for Businessの尾崎悠氏は、「TikTok自体、料理コンテンツとの相性は良いです。22年は、料理関連の動画が前年比で20%増えました(自社調べ)。ただ、まだ企業が取り組めていない中、ミツカンは非常に上手に運用されている印象です」と話す。
※このインタビューはAdverTimes.にて2023年10月18日に広告掲載したものです。
投稿した動画の数は約80本で、多くがミツカンの商品を使った料理のレシピ動画だ。
「ミツカン社内に大旋風を巻き起こした10分で簡単ぷるぷる水晶鶏」「味ぽん®️担当者が考えた! 玉ねぎを最強に美味しく食べるメニュー」など、動画がレコメンドされてきた際など、ユーザーの興味を引くレシピ名を付けている。フォロワーの伸び率やエンゲージメント率、保存数も高く推移しているほか、コメントもポジティブなものが多い。
ミツカンがTikTokを始めた理由
ミツカンのTikTokアカウントは、マーケティング本部とCRM本部の共同施策として、企画立案担当、運用担当、メニュー開発担当の3名体制で運用している。マーケティング本部コミュニケーションチームの小玉理代氏は企画立案担当。運用については、CRM本部からさまざまなプラットフォームの企業公式アカウントを担当するメンバーが、日々の更新や各ユーザーとのコミュニケーションを担う。メニュー開発担当はWebだけでなく、テレビCMの監修など、ミツカンのレシピ開発全般に携わっている。文字通りの少数精鋭だ。
TikTokでの企業アカウント開設の検討が始まったのは、2022年11月。既存の公式アカウントは、25歳〜34歳のフォロワーが多く、普段から調理をしている人が多いことがわかっている。そうしたユーザーを大切にしながら、「たとえば新生活が始まるなど、これから調理をし始める方、これまではなかなか調理に手が伸びなかった方とも当社ブランドとの接点を設ける必要があると考えていました」と小玉氏は話す。
コロナ禍前後でのライフスタイルの変化も開設の後押しとなった。渦中は外食がしづらくなり、在宅時間が増えたことで調理機会は増えたが、その反動で、“調理疲れ”が生じている気配もある。
「コロナ禍前と比べ、調味料になかなか手が伸びなくなった傾向が現れています。一方、食の分野では冷凍食品や袋麺が活況です。クオリティも上がっていますし、生活者心理としては、利便性や簡便さをより一層求めているのではないかと考えています」(小玉氏)
ミツカングループのレシピサイト「おうちレシピ」でも、調理時間が10分以内の簡単なレシピを多数紹介してきた。たとえば調味酢「カンタン酢 ™」のテレビCMでも、計量スプーンなどを用いずに「カン・タン・すぅ~」のリズムで回しかけたり、「味ぽん」は水と1:1で煮るだけの「鶏のさっぱり煮」など、手軽さを重視している。
「結論から言えば、私たちメーカーが考える『簡単さ』と、生活者が考える『簡単さ』にはまだギャップがあるということです。これまで、どちらかといえばレシピの伝達手段はテキストと写真がメイン。それも試すハードルになっていたかもしれません。より短い尺の動画で簡単さを伝えることができれば、これまで培ってきた手軽なレシピがより多くの人に届けられるのではないか。やるならいまじゃないか、というのもTikTokにたどり着いた理由のひとつです」(小玉氏)
「味」への期待感を高める演出
動画で意識しているのは、でき上がったシズルで味が感じられるような、揚げているシーンや盛り付けるシーンだ。「とにかく、おいしさへの期待感をふくらませることに気を配っています」と小玉氏は話す。メニュー開発担当のメンバーがこれまでテレビCMで培ってきたノウハウをもとに、見せ場を計算。合わせて、計量器具など少しでも簡単さを阻害しそうなものは使わないようにしているのもポイントだ。
制作パートナー企業の存在も大きい。「毎月定例ミーティングを開催し、同じテイストの動画でも伸びの違いがあればなぜか、視聴を続けてもらえたのはどのような編集の工夫が生かされたからか、などを分析しています。企業活動として、実際のスコアをKPIと照らしながら評価していく一方、どうすれば見ていただけるか。私たち自身がTikTokクリエイターであるつもりで取り組むことも重要だと感じています」(小玉氏)
動画のサムネイルや1カット目に出てくるレシピ名もこだわりのひとつだ。通常ならシンプルに付けたくなるところ、「ミツカン一同なすに感謝」と始まる。実際、TikTokアカウントでなすのレシピは人気で、「本当に感謝です」と前置きしつつ、小玉氏はこう続ける。
@mizkan_official カリっとした衣に、なすのとろ~りじゅわっと広がるつゆのうまみが口の中であわさり、たまりません! 揚げることでなすが縮むので、大きめに切ることがポイントです。色鮮やかに仕上げるために、強火で短時間でカリッと揚げます???? #TikTokレシピ #簡単レシピ #節約レシピ #なすレシピ #茄子 #めんつゆ #からあげ #追いがつおつゆ2倍 #ミツカン ♬ Cooking Time – Lux-Inspira
「動画を出し始めたときは、『超簡単! ガーリックぽん酢炒め』などでしたが、動画の反応や、TikTokに投稿されているそのほかの動画なども見ていく中で、工夫しなければ、ほかのTikTokクリエイターさんに勝てないと感じました」(小玉氏)
「企業アカウントが陥りがちなこととして、運用ルールを厳格にしすぎてしまい、新しいアイディアを取り入れていくことが難しかったり、PDCAサイクルが遅くなったりするケースがありますが、ミツカンさんにはそれがありません」とTikTok for Businessの高木詩織氏も指摘する。
「数字を見ても、TikTok内の動画再生数の平均の4倍の再生数となっていますし、TikTokクリエイターと比べても全く見劣りしない実績も付いてきています。ファーストビューの細やかな工夫も必見だと思います」(高木氏)
「いかにオススメに表示されるかが大事」と小玉氏は続ける。そのためにもエンゲージメントが多くつく動画を投稿するのもさることながら、「初期段階から少額でも広告配信を入れ、多くのユーザーにリーチしてエンゲージメントを取るということも決めていました。実際フォロワーも増え、エンゲージメントも増え、結果的に動画クリエイティブの良し悪しの判断がすばやくできるようになっています」(小玉氏)。
ミツカンが活用しているのはフォロワー増加目的の広告配信メニュー「コミュニティインタラクション」。当初は一般的なCPMやCPVでの運用だったが、数字検証を重ねる中で、今年4、5月ごろからCPF(フォロー単価)に切り替えた。
「まだあまり企業事例もない中で、アカウント育成と広告配信を非常にうまく組み合わせていただいていると思います。フォロー単価も平均より15%と、非常に良い結果を出しています」(尾崎氏)
コメント欄に届く生の声で実態を把握
TikTokアカウントを開設した狙いは、もうひとつある。それは、ユーザーの調理の実態を把握することだ。レシピ動画を投稿していくことで、どれくらい試す人がいるか、あるいは、調理の意向が高まるか。小玉氏は「TikTokを選んだ理由は、そうした生活者の方々のリアルな反応が得られると考えたからです」と話す。
そのためにコメント欄を開放しているのもミツカンのアカウントの特徴のひとつと言える。一般的にはネガティブなコメントが付いたり、ときには“炎上”したりすることを懸念して開放しないケースも少なくない。ミツカンのアカウントにもほとんど多くはポジティブなものが寄せられているが、中にはネガティブなものも目につく。
「ただ、運用しはじめて本当にありがたいと思うのは、ネガティブなコメントに対して自発的にフォローするような投稿をしてくださるユーザーもいらっしゃるということです。これはTikTokのよい部分ではないかと思います。もともと生の声をいただきたいと思っていたので、コメント欄をオープンにするかどうかを決める際も、いや、開放しないと意味がないと考えました。そのほかでは閉じているケースもあるのですが、TikTokでは投稿できるようにしようと」(小玉氏)
寄せられたコメントは運用担当者らのグループチャットで共有し、「このコメントは受け止めたほうがいい」などと判断。「コメントを見るのは基本的に楽しい」というのが小玉氏の弁だ。なすのレシピ動画投稿が続いて、「なす飽きた」というコメントが付いたときには、次に投稿する動画で「(ミツカンは)なすの回し者です」といった旨のナレーションを入れるなど、ゆるやかなコミュニケーションにも生かしている。
「自社商品ながら新しい発見だったのが、『カンタン酢』を本当に受け入れていただけていることも反応からわかっています。お母さんに作ってもらおう、とか、食べたくなったから作ってみようなど、TikTokをやらなかったら聞くことのできなかった声かもしれません」(小玉氏)
こうした声を、マーケティング施策に生かす考えもある。再生数が多かったレシピや、電子レンジなどに調理器具を置き換えることでより簡単に見え、試す人が増えるのではないか、など、発見も多い。
「こうした手応えを、たとえばテレビCMに生かすことで、より多くの方に商品を手に取っていただける表現にするといった流れを生み出せるとよいと考えています」(小玉氏)
さらに意図していなかった動きも出てきた。小玉氏によると、「Web記事などで言及されるケースが目立って増えてきた」という。もともと導入していた測定ツールから辿ってみると、TikTok動画を埋め込んだ記事が増えていることがわかった。
「当社から能動的にTikTok以外の場でも動画を用いることはしていますが、ある種自然な形で引用されることが増えてくると、大きなリーチが取れるということが目に見えるようになりました。費用対効果を高める意味でもありがたいです」(小玉氏)
動画で使用する音楽などの素材は著作権フリーのもので、店頭でも使えるようにしていたのも、こうした波及効果をうまく高めている。肖像権や版権がかかわってくると、どうしても使用できる期間が限られてしまうからだ。
「営業担当者がいつでも好きなタイミングで使える、というのも重要なことだと思います。TikTokだけで終わらず、多面的な使い方ができればと思います」(小玉氏)
今後はレシピ以外にも挑戦
9月には、これまでと趣向を変え、ミツカン社員を前面に押し出した動画「ミツカン社内で社員にだる絡みしてみた」を配信。こちらは同社納豆ブランドの『金のつぶ®️』 を使った アイスの試食を社員に求めるもので、男性社員のひとりには「最高のキャラクターすぎる…かわいい」などの好意的なコメントが多く寄せられている。
リアルタイム配信の「TikTok LIVE」などの実施を経て、社員の出演に踏み切った。「味ぽん担当者」というフレーズを動画に入れると反響があることも後押しとなっている。
「レシピも重視していますが、そこから一歩踏み出すようなコンテンツにも挑戦していきたいと思っています。ふだん、お取引先さまから仲のいい会社と言っていただけているので、そうしたところをより多くの方が感じられるコンテンツを用意できると、会社に愛着を持っていただくCRM目的としても、採用活動としても、副次的に会社の成長につながっていくのではないかと」(小玉氏)
同様の狙いで、TikTokクリエイターとのコラボレーションも開始した。従来のフォロワーを裏切らないようにしながら、新たなユーザーとの接点を持てる活動にも注力していくという。
「こうした動きは、よりTikTokライクで、好意度を高めたり、ファン化を促したりといった効果があると考えています」と話すのは尾崎氏だ。
「よりオーガニック風の動画を投稿したり、いい意味で公式アカウントらしからぬ、壁を感じさせないコミュニケーションを図っていくことで、ユーザーとの関係も深まっていくはずです」(尾崎氏)
これから秋が深まり、冬が訪れれば、ミツカンが得意とする鍋のシーズンとなる。同社は鍋つゆカテゴリーはシェア1位で、ことしも新商品を多く発表する予定だ。TikTokの活用も、そのキャンペーンの中に組み込まれている。TikTokではアッパーファネルに効果的な「TopView」や「Spark Ads」も展開予定だ。
※TopView:ユーザーがアプリを起動するとフルスクリーン/サウンドONで表示され、1日でTikTokユーザーに最大級のリーチが可能。
※Spark Ads:クリエイターや企業のオーガニック投稿を広告として配信することができる。より自然な形で広告の視聴体験を提供することが可能。
小玉氏は「鍋をエンタメの世界に入れたい」と話す。
「鍋は楽しいものという訴求を、さまざまなオケージョンにおいてしていきたいと考えています。鍋をエンターテインメントの世界に入れることができたら、週1回だった方が2回になったり、鍋というカテゴリー全体が盛り上がるはずです。そうしたエンタメ性をうまく生かす上でも、TikTokは力強い味方になると思います」(小玉氏)
制作:宣伝会議 AdverTimes.編集部
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