「マキアージュ」、TikTok 広告でフルファネルをリフトアップ。定番商品の売上120%を実現できた戦略とは?
TikTokで商品が幅広く認知され購買につながる現象は、もはやトレンドではなく、一般化しつつある。
ロングセラーブランド「マキアージュ」は若年層獲得をチャレンジとして、昨秋初めてTikTokの本格的なフルファネルキャンペーンに挑戦した。
このときプロモーションしたのは、新発売のアイテムや限定カラーの発売ではなく、定番商品のリキッドファンデーション「ドラマティックエッセンスリキッド」だ。すでに高いシェアを誇る人気商品にも関わらず、キャンペーン当月・翌月の売上は前年同期比120%、20〜30代の構成比も4.4%上昇。Kantar社による第三者調査でも、TikTok広告が認知拡大から売上伸長まで、すべてのファネルで寄与することが実証されたという。
「アート&サイエンス」(2つの異なる優位性を融合してユニークで新しい価値を創出していく)というDNAが受け継がれている資生堂は、いつの時代も新たな美を生み出すクリエイティビティを追求してきた。その資生堂を代表するメイクアップブランドであるマキアージュは、なぜブランドの世界観を守りながら、TikTokユーザーとのエンゲージメントを高めることができたのか。
今回のキャンペーンを手がけた資生堂ジャパンの藤井大樹氏と、TikTok for Business Japanの高木千尋氏に話を聞いた。
※このインタビューはDIGIDAYにて2024年3月29日に広告掲載したものです。
「認知」と「購入意向」を醸成するための2つの山を設計
――マキアージュが実施した昨秋のキャンペーンには、どのような背景・狙いがありましたか?
藤井大樹(以下、藤井):このキャンペーンの目標は、マキアージュの主力商品であるリキッドファンデーション「ドラマティックエッセンスリキッド」の話題化とシェア拡大です。2005年に誕生したマキアージュには、幅広い年齢層のお客様がいらっしゃいますが、新たな層の獲得を課題としていました。
とくに重視していたのは、20〜30代へのアプローチです。その方法を模索するなか、昨年4月に開催されたTikTok for Business Japan主催の「ForYou Summit」という年次イベントに参加したところ、バズ発生から実際の売上につながったいくつもの事例を目にして、TikTokがきっかけで商品の購買につながることは、もはやトレンドではなく、一般化していると改めて感じたのです。そのことを社内に持ち帰り、提案した結果、TikTok広告に本格的に取り組んでみようと意見がまとまりました。
藤井 大樹/資生堂ジャパン株式会社 プレミアムブランド事業本部 メイクアップマーケティング部 デジタルマーケティング戦略グループ アシスタントブランドマネージャー。2018年に新卒で日本ロレアル株式会社に入社し、マーケティング業務に従事。2021年に資生堂ジャパンにキャリア入社し、メイクアップブランド「マキアージュ」のマーケティング業務を担当後、デジタルマーケティンググループへ異動。デジタルプロモーションやEC運用などに携わる。
これまでもTikTok広告を利用したことはありましたが、IMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)全体での大きなキャンペーンは今回が初めてでした。社内には、新たなマーケティング活動に挑戦しやすい環境があるので、思いきってチャレンジすることができました。
――具体的にどのような施策だったのでしょう。
高木千尋(以下、高木):2023年10月から約1カ月かけて、認知から理解を深め、購入意向を高めるまでのフルファネルキャンペーンを段階的に組んでいただきました。アプリ起動時にユーザーが最初に見る動画広告TopViewと、コンテンツ間に出るインフィード広告を組み合わせて、大きな山を2つ作ったことが今回の特徴です。
認知獲得のための山と、購入意向を醸成するための山を設計した
まず1つ目の山は、認知獲得に効果的なTopViewでミューズである池田エライザさんのブランド素材を配信しました。その後、ブランド素材と並行する形でTikTokクリエイターを複数名起用した素材のインフィード広告を配信しました。そして、キャンペーン開始から3週間後、認知が広がり理解が深まってきたタイミングで、購入意向の醸成とアクションを促進するために2つ目の山を作りました。ここでは、クリエイター素材を活用した2度目のTopView配信と、同じくクリエイター素材の中でもローワーファネルコミュニケーションに特化したインフィード配信を行いました。それはユーザーにとって、より身近な存在であるクリエイターの呼びかけが効果的だと考えたからです。
高木 千尋/TikTok for Business Japan, Global Business Solutions, Strategic Account, Beauty and Luxury Client Partner。大手広告代理店、データ事業会社、VOD事業会社においてデジタル広告やマーケティングに従事後、スタートアップ立ち上げなどを経て、TikTok for Businessに参画。Client Partnerとしてビューティー、ラグジュアリー領域におけるTikTok活用を推進。
――TikTokというエンターテインメントプラットフォームでクリエイティブを展開するにあたり留意された点はありますか?
藤井:今回使用したクリエイティブは、ブランド素材とクリエイター素材と大きく2つに分けられます。どちらもブランドの世界観を守りながら、多くのユーザーに見ていただくにはどうすればよいか。考えて導き出した答えが、「訴求したいメッセージを絞り、簡潔に伝えること」でした。「極上つるん肌」というキーワードを設定し、仕上がりの美しさだけではなくスキンケア効果のある美容液ファンデーションであることが伝わるように意識しました。
池田エライザさん出演のブランド素材を使用したTikTok広告
ブランド素材は、冒頭3秒でいかに指を止めてもらえるかを考え、テレビCMのために撮影した映像をTikTok用に編集しました。トンマナから音楽、フォントに至るまで、ブランドの世界観や訴求ポイントはしっかり踏襲しつつ、TikTokに最適化したクリエイティブを作ることができました。
成功のカギは、ワンメッセージ「極上つるん肌」に絞ったこと
――ブランドの世界観を守るうえで、TikTokクリエイターを起用するのは冒険だったのではないでしょうか。
藤井:たしかにチャレンジングではありましたが、ブランド発信では届かない人たちにアプローチするには、クリエイターさんたちの力が必要だと考えて起用を決めました。TikTokはエンターテインメント要素の強いプラットフォームなので、今回は美容系に加え、美容エンタメ系、エンタメ系などさまざまなジャンルの複数名に制作をお願いしました。ブランドの世界観を守るため、やること、やらないことを最初にきちんとお話ししましたが、そのほかについては、「極上つるん肌」を伝えてもらうこと以外は、できるだけ自由に表現してもらえるようにしました。
それは、ブランド側からの注文が多いと、広告色の強い同じようなクリエイティブになってしまうと考えたからです。伝えたいことをワンメッセージに絞った結果、クリエイターごとの個性が見られるさまざまなクリエイティブが生まれ、美容関心のコア層だけでなく、ライトな層にもリーチすることができました。
クリエイターによるTikTok投稿
高木:今回のクリエイティブは視聴率、エンゲージメント率ともに上々の結果が出ました。伝えたい要素を詰め込みすぎなかったことが、個々のキャラクターを活かしたクリエイティブを引き出したのだと思います。
――今回の施策に、何か特別な機能は使用されましたか?
高木:すべてのクリエイティブに、インタラクティブアドオン機能のうち、「スーパーライク」を採用していただきました。通常「いいね」を押すとハートの色が変わるだけですが、今回はハートとともにマキアージュロゴがふわふわと浮かび上がる仕様で、「いつもと違う動きがかわいい」とコメント欄がにぎわいました。
藤井:TikTokはコメントを見ながら動画を見る人が多いと聞いていましたが、「スーパーライク」は予想以上の反応でした。ロゴ付きのハートが出るたび、マキアージュというブランド名をユーザーが目にする機会が増えた点も良かったと思います。
高木:さらに、コメントを見た人が自身で「いいね」を押してみることで、「本当だ、いいねしてみたら可愛かった」などさらなるコメントの促進にもつながります。こうしてユーザーのアクションを喚起する流れが生まれると、どんどんエンゲージメント率も高まるので、広告のパフォーマンスも上がります。
インタラクティブアドオン機能「スーパーライク」の表示例
――キャンペーンの成果はいかがでしたか?
藤井:キャンペーン当月・翌月の売上が、前年同期比で120%になりました。限定カラーの発売などならあり得ることですが、定番品でこれほど売上が伸長するのは、かなり珍しいことでした。また、20〜30代の構成比も4.4%アップしました。同時期に、店頭やほかのプラットフォームでもキーメッセージ「極上つるん肌」を使うなど、IMCの軸としてとらえたことが全体的なプロモーションの成功につながったのだと思います。ほかにも、「肌がきれい」「使ってみたい」といった、商品や今回のプロモーションに関するコメントがたくさん寄せられたことで、メッセージがきちんと伝わったことを実感できました。
高木:Kantar社の第三者調査では、〈広告認知〉が+6.9ポイントで、〈購入意向〉は+8.1ポイント、〈推奨意向〉に至っては+10.9ポイントという結果になりました。通常リフトアップするハードルが非常に高い〈購入意向〉において高いリフトが見られ、さらには、自分がほしいと思うだけでなく、人におすすめしたいという〈推奨意向〉の数値が最も高い。これは今回のキャンペーンが深いファネルにまでしっかり届いたということを表しています。
このような成果が出たのは、藤井さんをはじめ、みなさんがTikTokというプラットフォームを深く理解し、ご尽力くださったおかげです。特にクリエイターを起用する際、エンタメ系にまで踏み込んでくださったことも大きなポイントだったと思います。
記憶に残りやすく、使ってみたい気持ちを醸成できる
――改めて、TikTok広告の魅力はどのようなところにあると思いますか?
藤井:ユーザーに楽しんでいただきながら、商品の良さをお伝えできることではないでしょうか。一般的に広告というものは、ブランドの世界観は伝達できても、身近に感じにくい側面があります。しかし、TikTokというプラットフォーム、そしてクリエイターさんたちの力を借りることで、ブランドがより身近な存在になり、商品を使ってみたい、試してみたいという気持ちを醸成できます。
加えて、視覚・聴覚で認識するフルアテンションのプラットフォームということだけでなく、コメントを書いたり、「いいね」を押したりユーザーが能動的にエンゲージしやすいこともTikTokの強みだと思っています。何かしらのアクションが伴うので見た人の記憶に残りやすく、店頭やECで手に取ってもらう機会が増えるのも魅力だと思います。
――今回のようなキャンペーンは、ほかにどのような業界・業種に向いているでしょうか。
高木:最近よくお問い合わせをいただくのは、テレビからデジタルへのシフトを検討されているお客様で、飲料や自動車・ラグジュアリーブランドなど、とくにブランド認知拡大に力を入れている企業様からの引き合いが増えています。これは、TikTokには若者だけでなく幅広い層のユーザーがいること、そして業界や業種を問わず、ご要望に応じてプランニングできることが伝わったからだと思います。
今回のマキアージュさんのように、フルファネルでの取り組みをしていただけると、その効果をより実感していただけます。現在はB2Cのキャンペーンが多いのですが、B2Bにももちろん対応できますので、興味のある方はぜひお問い合わせください。
――今後は、どのようなことに取り組んでいきたいですか?
藤井:今回のリキッドファンデーションのキャンペーンでは、ブランド素材に加え、クリエイターを複数名起用する形で実施しましたが、ほかの商材ならどうか、クリエイターは何名が最適かなど、ラーニングを積むところはまだまだあります。ソリューションも「スーパーライク」以外にもたくさんあるので、目的に応じて試していきたいですし、この成功スキームを社内にも共有して、ほかのブランドとともに成長していければと思います。
高木:マキアージュさんが挑戦してくださったことで、TikTok広告がブランドの世界観を守りながら、すべてのファネルでリフトアップに寄与し、すでに人気のある商品でもさらなる売上向上に貢献できることが改めて明らかになりました。また、今回の施策はプランニングやクリエイティブの面で、我々にとっても学びの多い機会となり感謝しています。この先は、マキアージュさんのほかの製品、そしてほかのブランドでもTikTokがフルファネルでのリフトアップやビジネス成長に貢献できるよう尽力します。
Written by DIGIDAY Brand STUDIO(山本千尋)
Photo by 渡部幸和