新ジャンル「アウトドア×鍋」を生み、新たな顧客層を開拓したミツカンの TikTok 戦略とは
TikTokやSNSでトレンドの「兆し」を見つけ、それをプロモーションと結びつけて拡散し、高い広告効果を得る。そんなデジタルマーティング戦略を実現させたのが、「カンタン酢™」や「味ぽん®」をはじめとする家庭用調味料でおなじみ、ミツカンだ。
ミツカンは、〆まで美味しい鍋つゆ、通称「〆鍋」シリーズのメインプロモーション施策をTikTokで展開。そのなかで「アウトドア×鍋」といった新カテゴリーを生み出し、新たな顧客層の開拓につなげた。
同社はいかにしてトレンドをつかみ、拡散を起こして成果につなげたのか? 施策を担当したミツカン コミュニケーション戦略部 利井瞳氏とTikTok for Business Japan 高木詩織氏に、プロモーションの成功要因を聞いた。
※このインタビューはDIGIDAYにて2024年6月17日に広告掲載したものです。
市場環境が変化し、新たな顧客層の開拓が必要に
DIGIDAY編集部(以下、DD):〆鍋シリーズのメインプロモーションを、TikTokで展開することになった背景について教えてください。
利井:これまで当社は、テレビCMなどのマスプロモーションを中心にプロモーション施策を展開してきましたが、近年は生活者のライフスタイルの変化で、マスプロモーションだけではコミュニケーションがとれない方々も増えてきました。また価値観も多様化し、ひとつのメッセージを一方的に訴求するだけでは、広く共感を得ることが難しくもなっています。
だからこそ、新しいメディアやプラットフォームを通して新たな接点を持つこと、そして生活者一人ひとりのインサイトを捉えたうえで個別にメッセージを届ける必要が出てきています。それを実現する広告メディアの有力なひとつとして、ユーザーの自然でリアルな反応がみられるTikTokに着目しました。加えて、鍋つゆ市場の現状の課題も、TikTokを選んだ背景に関係しています。
利井 瞳/株式会社Mizkan マーケティング本部 コミュニケーション戦略部 コミュニケーションチーム マネージャー。2013年、(株)Mizkan入社。量販店の営業担当や営業支援業務を担当後、味ぽんや鍋つゆなど商品プロモーションを中心としたコミュニケーション領域を担当。2024年より、商品に関連した広告・PRを立案・実行するコミュニケーションチームにてマネージャーとして従事。
DD:鍋つゆ市場の課題とは何でしょうか?
利井:暖冬の影響で鍋需要が高まる時期が遅くなり、その結果、最盛期が短くなっていることです。また、近年は多種の鍋つゆ製品が市場に出回って、味の種類も製品仕様もほぼ出揃った感があり、特定の製品によって多くの支持を集めることが難しくなってしまいました。
そうした状況下で売上をより伸ばすには、従来の30~40代のファミリー層というメインターゲット以外にも、新たな支持層をつかむ必要がある。その点でも、とくに若年層へのアプローチにも強いTikTokはぴったりであると考えました。
DD:なるほど。では、実際にどのようなプロモーションを展開したのでしょうか?
利井:TikTokクリエイター11組とコラボレーションし、〆鍋を使ったシーンを紹介する動画をTikTok広告で展開しました。ただし、動画の内容に関しては当社でやってほしいことをガチガチに決め込んでしまうと、新しいアイデアにつながりにくいと感じたため、あえて指定はあまり行わずに鍋の自由な楽しさを表現していただくことに努めました。
〆鍋シリーズではありつつ、〆を強調していただくような依頼もしていません。そのかわり、柱となるコンセプトをブラさないことは意識しました。
DD:そのコンセプトとは何でしょう?
利井:鍋は短時間で食べるものではなく、長い時間をかけて味わうものです。つまり、〆までおいしいということは、鍋の最初から最後まで、楽しい時間を長く過ごせることにほかなりません。そんな鍋の本質をあらためて大切にし、それを各クリエイターさんにとってリアルな形で自由に表現していただこう。そう考えたんです。
その結果、たとえば丸鶏をアウトドアで豪快に調理するシーンがあったり、子供が好きだからという理由でハンバーグを具材として入れてしまったりと、メーカー側からの一方通行の発信では出にくいようなエンタメ感や斬新さをもったクリエイティブになりました。同時にTikTokの空気感と調和し、必要以上に広告感のない、つまりはクリエイターのファンやそのほかの一般ユーザーが入り込みやすい動画になったと感じています。
DD:11組のクリエイターとコラボしたということは、広告として展開するタイミングも重要かと思いますが、それについてはいかがですか?
利井:各クリエイターさんの動画を観たうえで、この内容はこのくらいの時期がいいだろうとか、この動画とあの動画をあえて同じタイミングで展開しようといった戦略を綿密に練りました。
高木 詩織(以下、高木):私も戦略づくりのサポートを一部させていただいたのですが、一気に同じクリエイティブで広告を配信してしまうと、ユーザーに同じ広告が何度も当たってしまうことになりますので、ネガティブに働くケースもあります。そのため、各フェーズごとにクリエイティブの配信期間をしっかり決め、ユーザーを飽きさせないような展開を心がけました。
高木 詩織/TikTok for Business Japan, Global Business Solutions, Growth Acceleration Client Solutions Manager。広告代理店オプトにてSNS広告コンサルを経て、メディア戦略部にて各媒体の広告戦略策定・向き合いを行う。2021年、全社表彰等を獲得した後にマネージャーとして従事。その後、TikTok for Business JapanにてClient Solutions Managerとして幅広い業種の広告主様をサポートしている。
キャンプでのひとり鍋動画が、数時間で100万再生超に
利井:注意した点は、プロモーションの「山場」を複数回つくることを意識したことです。鍋つゆは、寒くなる11月からの2カ月くらいが最盛期で、その時期を広げようと、今回はまず10月頭から「アウトドア×鍋」といった新しい訴求も盛り込みながらプロモーションを展開し、最初の大きな山を構築。その後、11月の最盛期に入る頃に、前半の各クリエイティブのダイジェスト動画も流したりしながら、2回目の山を作りました。
高木:山を作るにあたっては、TikTokの広告メニューを有効に活用いただきました。具体的には、3カ月弱の出稿期間でTopView2回と、インフィード広告を配信いただきました。とくにTopViewは、アプリ起動時に表示される広告メニューでして、もっとも大々的にリーチできるメニューとなっています。
ほかにも、TikTok広告の拡張機能のひとつ「スーパーライク」を活用し、いいねを押すと〆鍋のアイコンとハートが表示される仕掛けを取り入れていただきました。それもあり、今回は動画そのものに加え、コメントなどにも多くのいいねが付きましたね。
DD:具体的な効果はいかがでしょうか?
高木:どの動画も反響が大きく、関連動画の総再生回数は7,372万回*と非常によい結果となりました。とくに、アウトドアでのひとり鍋をつづったチュートリアル・徳井さんの動画は、投稿から2時間ほどで100万再生を超える驚異的な数字に。
*2024年1月19日時点(広告を含む)
全体的にも再生完了率やLP遷移率、さらには保存やシェアなど、エンゲージメント関連の数字も非常に高く、ユーザーがコンテンツとして楽しめて、かつ誰かに共有したくなるようなプロモーションになったのではと思います。
@yamakawa6666 Japanese “Chanko” hot pot🐤 @ケンネル/Kennel #PR #ミツカン #〆鍋 #鍋がみんなをひとつにする #nora🇯🇵 #川で料理 ♬ オリジナル楽曲 – NORA🇯🇵
人気TikTokクリエイター「NORA(@yamakawa6666)」氏のクリエイティブ
また、TikTok内の検索数の増加も非常に顕著でした。プロモーションを展開した2023年10月〜12月の前年同時期と比べた検索数は「鍋」が2.5倍、「鍋つゆ」が9倍と、驚異的な伸びを記録しています。商品そのものにとどまらず、鍋の楽しさやシーンを訴求したことで、ユーザーの検索意欲がかきたてられたのではないでしょうか。
利井:もともと鍋はレシピのニーズが高くなく、広告を出しても検索数は上がりにくいので、この数字は全くの予想外でした。
さらに、「鍋×アウトドア」という切り口に対する反響の高さに驚かされたのも事実です。人気が高止まりしているように感じるアウトドアですが、そこに鍋を組み合わせることで、「まだこれほど伸びるのか」と思ったほど。まだ暖かい10月から反響が上がったことも踏まえ、まさに新しい間口を開拓できたと感じます。
高木:もともと〆鍋シリーズは主婦層がメインターゲットだったそうですが、KANTAR JAPANの調査によると、今回は男性層の広告認知度やブランド好意度、購入意向などのスコアが圧倒的に高く、まさに新たなターゲット層を発掘していただけたと考えています。
TikTokで見られる、トレンドの兆し
DD:そうした結果を出せたのは、改めてなぜだと感じますか?
利井:実は当社は約1年半前にTikTokで公式アカウントを立ち上げ、商品にまつわるさまざまな投稿をしながら、TikTokでウケるクリエイティブの研究をしてきました。たとえば、TikTokでは動画を次々とスワイプして見ることができるので、最初の2秒間が重要です。料理動画を投稿する場合にも冒頭に「ミツカン社内で大旋風!」といったアテンションを文字とナレーションでつけると、見てもらいやすくなります。
また、TikTokの投稿を見ていると、トレンドの兆しのようなものも掴めます。今回でいえば、キャンプにこたつを持ち込んで鍋をするなど、アウトドアに鍋を紐づけた投稿が多少あったというのがアイデアのきっかけのひとつです。そうしたいくつかの兆しに着目し、それを「〆まで美味しい=楽しい時間を長く過ごせる」という訴求ポイントと組み合わせることで生まれたのが、今回の施策でした。
そのように、まずはTikTok内で兆しを見つけ、それを訴求したいポイントとともに打ち出し、TikTokの感度の高いユーザーたちを通じて広めるというやり方は、再現性があると思います。
高木:TikTokでは、公式アカウントの運用を通してどんなトレンドがあるのか、どんな訴求だと惹きが強いのか、どんな内容が自社にマッチしているかといったことを掴みやすいため、テストマーケティング的にも大いに活用できると思います。
利井:外部での調査などで出てくる声より、実際にTikTokの運用を通して見られる動態の方が、圧倒的に自然でリアルな場合がありますね。
高木:TikTokはトレンドに敏感なユーザーが多く、新たなトレンドの拡散がされやすいのも特徴です。TikTokで起こったブームが、外の世界にまで広がって話題になることも少なくありません。
また、新しいことにトライしやすい点もTikTokの強みではないでしょうか。たとえば、ひとり鍋のシーンを描く場合、普通ならちょっとさびしい絵面にもなりかねません。でもTikTokであれば、エンタメ方向に振っての楽しい訴求がしやすいという特性があります。そうしたことを踏まえると、まさにアウトドア×鍋のような新カテゴリーを発掘するのにうってつけのプラットフォームだったのではないでしょうか。
ムーブメントの源泉を見つけて育てる
DD:食品関連のプロモーションとの相性、という点で言えば、とくに良さそうですね。
高木:TikTokは1分以内の動画が主流で、レシピを紹介するにしても、簡潔でわかりやすい内容になる傾向があります。また、フルスクリーン動画で音声もONなので、食べ物のシズル感もダイレクトに伝わりやすい。
そう考えると、食品系のプロモーションとの相性は、非常に良いと考えて間違いありません。実際、近年は料理系のコンテンツが伸びており、食品関連のプロモーション案件も増えています。
DD:ミツカンでは今後、TikTokをどう活用していくかの計画はありますか?
利井:最近は、調味料をはじめとするさまざまな商品でも、TikTokを活用したプロモーション案がよく挙がるようになってきました。たとえば、カンタン酢はアニメーション風のクリエイターとコラボすることで若年女性の開拓などを図ったり、汎用つゆ調味料ではタレントを活用したドラマ仕立ての動画によって、若年のタレントファン層への認知獲得を試みたりしました。
一見ニッチな方向性でも、それを支持するユーザーの母数はイメージ以上に多い場合があるため、そこに訴求して拡散が起これば、新たな購入層の開拓につなげられます。このように、ムーブメントの源泉を見つけて育てられるところに大きなやりがいを感じますし、それが今後の成長のカギのひとつになると実感しています。だからこそ、さまざまな商品で同様の施策を仕掛けていきたいとも思いますね。
高木:各クリエイターがアレンジレシピを紹介し、一般ユーザーがお気に入りのものに投票する、といった施策も面白そうです。
利井:やれそうなことはたくさんありますね。ぜひ今後もTikTok内でさまざまな兆しを見つけながら、いろいろトライしていきたいです。
Written by DIGIDAY Brand STUDIO(田嶋章博)
Photo by 三浦晃一
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