エンタメコンテンツにはもはや欠かせない存在に:データが実証したテレビとTikTokの親和性:テレビ東京 前田氏、博報堂DYメディアパートナーズAaaS 文屋氏、TikTok for Business 赤松氏

2023-12-22

テレビ離れやモバイルシフトが進んでいるといわれるなか、テレビ局はより効果的な番組の宣伝方法を模索している。

地上波ではリーチできない層にアプローチするため、デジタルのプラットフォームにドラマやバラエティの公式アカウントを設けて発信するなど、これまでもデジタル上でのプロモーションで試行錯誤が行われてきた。

テレビ東京でも以前から番宣(番組宣伝)にTikTokを活用してきたが、実際にどれほどの効果があったのか、どれだけの視聴者を獲得できたかを確認する術はなかった。しかし、博報堂DYグループが提唱する広告メディアビジネスの次世代型モデル「AaaS(Advertising as a Service)」の検証によって広告効果が可視化されたことで、PDCAがうまく回りだしたという。

日々新しいトレンドが生まれるTikTokで、効果的なプロモーションを展開するにはどうすればよいのか。テレビ東京 マーケティング局プロモーション部 担当部長 前田有花氏、博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネス戦略局 戦略二部 ビジネスプロデューサー 文屋賢大氏、TikTok for Business Japan, Global Business Solutions, Strategic Agency Group Head 赤松義隆氏に、番組プロモーションを成功に導くポイントについて話を聞いた。

 

※このインタビューはDIGIDAYにて2023年12月7日に広告掲載したものです。

エンタメコンテンツにはもはや欠かせない存在に:データが実証したテレビとTikTokの親和性:テレビ東京 前田氏、博報堂DYメディアパートナーズAaaS 文屋氏、TikTok for Business 赤松氏

「TikTokユーザーをどれだけ引き込めるか」を可視化する

DIGIDAY(以下、DD):まず、TikTokを活用するようになった背景に、どういった狙いや課題があったのでしょうか。

前田有花(以下、前田)テレビ局が番組を宣伝するとき、どの局もまず考えるのは、広くリーチがとれる地上波のプロモーションです。ですが、近年テレビだけでは絶対にリーチできない一定の層が存在することを強く感じていました。視聴者が年々高齢化するなかで、新しい層を開拓することは喫緊の課題。そこで、以前から注目していたTikTokを利用する若年層にアプローチしようと、2021年の年末年始に本格的な広告プロモーションを実施しました。

そのときは人気のTikTokクリエイターに動画制作と投稿をお願いしたのですが、キャンペーン後のTikTokブランドリフト調査(Brand Lift Study、以下BLS)で、たしかに認知がリフトアップしたことはわかりました。でも、テレビ局として本当に知りたいのは、何人の視聴者を獲得できたかという実数です。もう一段階踏みこんだ検証ができるなら、再度TikTokの広告配信を使ってみたい。そう考えて、「テレビ視聴にどう繋がったかを数字で把握できないか」と博報堂DYメディアパートナーズさんに相談しました。

前田 有花/株式会社テレビ東京 マーケティング局プロモーション部 担当部長。2005年テレビ東京入社、報道局で政治記者や経済ディレクター、キャスターなどを担当後、2015年に宣伝部へ。テレビ東京のドラマやバラエティ、経済番組、配信コンテンツなどの宣伝を幅広く担当。現在はファンコミュニティ「テレ東ファン支局」の運営にも携わる。

 

DD:何人の視聴者を獲得できたか、そのような検証ができるのですね。

文屋賢大(以下、文屋)データ起点で配信設計・効果測定ができるAaaSなら、配信後の広告効果を検証し、実数を推計することができます。配信したら終わりではなく、次に繋がる改善点を一緒に見出していく。こういった振り返りの部分まできちんとサポートできるのが、AaaSの強みなのです。

ご相談を受け、はじめにTikTokユーザーのテレビ視聴傾向を各種データから分析しました。するとTikTokユーザーはテレビの視聴時間が短く、放送局別で見てもテレビ東京の、とくに土日の視聴時間が低下傾向にあることがわかったのです。この調査結果から「ローテレ層(テレビをあまり視聴しない層)が中心のTikTokユーザーに対して、可処分時間の多い年末年始に効果的なキャンペーンを展開すれば、テレビ視聴に繋がる」という仮説を立て、配信設計を進めました。

文屋 賢大/株式会社博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネス戦略局 戦略二部 ビジネスプロデューサー。2023年博報堂DYメディアパートナーズに入社し、TVの価値共創をテーマに調査研究や放送局のマーケティング支援まで行う「TV AaaS LAB」の推進・拡大に従事。放送局やプラットフォーマーとともにテレビビジネスのDXと価値向上を目指している。

 

前田局内には、「テレビの視聴者とTikTokを見る人は離れたところにいる」という肌感覚が根強くあります。「TikTokでプロモーションして、果たしてテレビ視聴に繋がるのだろうか」という気持ちも少しはあったのですが、まずはやってみないとわからないと思い、前回から1年後、2022年の年末年始に3番組の番宣を実施することにしました。

DD:具体的にどういった番組で番組プロモーションを実施したのでしょうか。

前田「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」「THEカラオケ★バトル」の新春特番プロモーションをTikTokで展開しました。クリエイティブの内容は当時流行っていた「Hey!」に。出川さんや所さんをはじめとする出演者が手を挙げる動画素材を撮影しました。

@tvtokyo_pr 年末年始はテレ東系がスゴイ! #出川哲朗の充電させてもらえませんか ? #テレビ東京 #出川哲朗 ♬ オリジナル楽曲 – テレビ東京 – テレ東

2022年末に実施した新春特番プロモーション動画

 

赤松義隆(以下、赤松)TikTokでは、ユーザーが興味のあるコンテンツをレコメンドエンジンが届けます。この特徴をフル活用し、新たなユーザーに届く可能性を広げるために、弊社がおすすめしているのは、なるべくブロードで配信することです。このキャンペーンでは年齢や性別などでセグメントせず、配信ターゲットを「ALL + エンタメ関心層」に設定していただきました。

赤松 義隆/TikTok for Business Japan, Global Business Solutions, Strategic Agency Group Head。2004年に博報堂入社、化粧品、通信キャリアのアカウントディレクターを経て、メディアプロデューサーとしてデジタルプラットフォーマーと協働でビジネスフレームワークの開発などを推進。2021年にTikTok for Business参画、現職では広告事業におけるビジネスディベロップメントがミッション。

視聴者獲得の鍵はターゲットの精査とクリエイティブ

DD:結果はどうだったのでしょうか。

前田出川哲朗さんが出演する「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」の数字がいちばん跳ねました。広告配信の期間が終わったあとも、動画を公式アカウントに上げておいたらオーガニックで回り続け、これまでの再生数は1300万回以上。「所さんの〜」も650万回以上見られていて、この施策で若年層へのリーチが拡大し、どういう方が見てくれたかという属性もBLSで把握することができました。

ただ、認知のリフトアップに関しては、期待したほど上がりませんでした。出川哲朗さんはどの層からも愛されていますし、番組をすでに知っていたTikTokユーザーが、思いのほか多かったからです。Hey!のようなトレンド動画は新番組で挑戦したほうが認知拡大に貢献しやすく、知名度の高い番組の場合は放送日時や内容を訴求するクリエイティブにした方がよかった。このときの気づきは、その後のプロモーション企画への大きな学びになりました。

文屋TikTokユーザーはローテレ層が多いという事前調査を経て配信ターゲットとした「ALL + エンタメ関心層」を、AaaSの基盤データの一つであるインターネット結線テレビの視聴ログデータを分析するソリューション「Atma(アトマ)」で検証すると、TikTokで番宣を見た人は、番宣非接触者に比べてテレビの視聴時間が長い傾向にあることがわかりました。つまり、TikTokユーザー全体ではローテレが多いけれど、エンタメ関心層に絞ると実はテレビをよく見るハイテレ層でした。また、年代・性別ではMF2層のスコアがもっとも高く、男女ともに35〜49歳のユーザーに視聴誘因効果が働きやすいこともわかりました。

DD:実際に、どれくらいの人がテレビ視聴に繋がったのでしょう。

文屋「関東」の人口4300万人のうち、TikTokの番宣に接触した「リーチ人数」にBLSやAtmaのデータから算出した歩留まり率を掛けて、そこから、テレビの「視聴習慣のない層」、次に「広告認知者」という順で算出していくと、最後にTikTok広告に接触してテレビを見た「視聴遷移者」が推計できます。今回実施した3番組のうち、もっとも再生回数が多かった「出川哲朗の〜」の視聴遷移者は約7万5000人。さらに番宣の効果を確かめるため、自発的に視聴する可能性が高い人たちを除いて、広告に接触した視聴習慣のないグループと非接触者グループを比較すると、その視聴意向において前者は後者と比較して1.6倍のリフトが確認できました。

各ファネルの歩留まりと、視聴遷移者推計

 

番宣接触のリフト効果
(博報堂DYメディアパートナーズ調べ)

 

仮に、リーチ人数とテレビ視聴習慣のない層を同じ数にできたら、母数が増えるので視聴遷移者は34万人超になりますし、クリエイティブがウケれば広告の認知率も上がり、テレビ視聴の可能性も高まる。ターゲットを明確にして、配信セグメントやクリエイティブを工夫することで、TikTokをより有効的に活用できることが一連の検証でわかりました。

前田関東地区の個人視聴率1%は、約40万人。獲得できた7万5000人をどう評価するかは難しいところですが、この検証で初めて具体的な人数を知ることができました。そして、どのファネルを見直せば、最終的に獲得できる視聴者がどれくらい増えるかということと、改善すべき点も明らかになりました。これまでの広告は出稿したらそれで終わりでしたが、TikTokの場合はクリエイティブ次第で、もっと多くの視聴者を獲得できる可能性がある。映像をビジネスとしてきた我々テレビ局にとっては、まさに腕の見せどころですから、やりがいと面白さを感じています。

エンタメコンテンツとTikTokの好相性 さらなる仕掛けづくりも

DD:なるほど。ではその後は、テレビ局の強みを生かしながら、どのようにTikTokを活用していますか?

前田まずはクリエイティブを工夫しようと、3月末に行った木ドラ24「ゲキカラドウ2」の番宣では、2種類の動画を用意しました。ひとつは主演の桐山照史(WEST.)さんとのデート場面を想定した、辛い麻婆豆腐をアーンと食べさせてもらうクリエイティブ。もうひとつは本編の切り出しを使用した、麻婆豆腐や食べているところをフィーチャーした動画です。前者は女性が6割で35歳以下が7割、後者は男性が6割で35歳以上が5割超と、クリエイティブによって獲得できるターゲットがまったく異なることを実感しました。

2年前の年末年始、昨年の年末年始、そして今年の3月と、TikTokプロモーションの経験を重ねてきたことで、最近はうまくPDCAを回せるようになりました。7月クールのドラマ24「初恋、ざらり」は、オーガニックで800万回も再生されています。また、8月スタートのドラマ8「ブラックポストマン」では、制作発表の記者会見をTVerとTikTokで生配信したのですが、TikTokでは主演の田中圭さんの様子だけを中継する「田中カメラ」が好評で、手応えを感じています。

赤松TikTokは時に予想とは異なる結果が出ることもありますが、PDCAという観点でお付き合いいただけるのはありがたいことです。前田さんがおっしゃるように、クリエイティブはパフォーマンスにとても大きな影響を与えます。とくにトレンドを捉えることが重要で、TikTokのトレンドは数日で終わるものもあれば、1カ月、なかには半年以上継続するものもある。どんな表現がいいのか、何がユーザーに受けているかなど、クリエイティブのティップスを共有しながら、この先もご一緒していけたらと考えています。

DD:今後、テレビ局とTikTokはどのような関係を築いていけると思いますか?

前田インハウスでテレビをよく見る人とスマホアプリをよく使う人の重複度を調査したら、テレビ放送とTikTokはあまり相性がよくないという結果が出ました。ところが、放送ではなく配信で調べてみると、重なりは2倍になり、配信とTikTokとの相性はよいことがわかったのです。配信プラットフォームの視聴者を性・年代別で確認すると、TikTokで800万回再生された「初恋、ざらり」は、通常と比べてF1層が約2倍。バラエティ「秋山ロケの地図」にM1・M2層が増えたのも、TikTokとの相性の良さを実感しました。

このように、エンタメコンテンツとの相性は実証済みなので、今後も活用させていただきますが、とくにドラマの番宣でTikTokを使ったプロモーションは、もはや欠かせないフェーズに入っていると考えています。10月20日にスタートした篠原涼子さんと山崎育三郎さんW主演のドラマ8「ハイエナ」でも、お二人のシーンの切り出しや若者に人気の八木勇征(FANTASTICS)さんを起用したクリエイティブなどを展開していますので、ぜひご注目ください。

 

@tx_dorama8#ハイエナ 本編切り抜き動画???????? \ 俊介(#中尾明慶 )と谷原(#八木勇征 )から 怜(#山崎育三郎 ♬ オリジナル楽曲 – ハイエナ⚖️【テレビ東京公式】

赤松博報堂DYホールディングス、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズによる共同調査によると、最近では平均年齢が36歳とボリュームゾーンも上がってきています。それに伴いドラマやバラエティだけでなく、スポーツ・音楽・報道とジャンルも広がってきており、来期に向けて新しい広告のアセットも準備中です。TikTokユーザーとテレビの視聴者が、同じコンテンツを双方のプラットフォームで回遊する仕組みも考えていきたいので、これからもAaaSで検証していただきながら精度を上げる取り組みを続けていこうと思います。

文屋弊社では、テレビの価値向上を目指し、研究や外部発信をする「TV AaaS Lab」というコミュニティを運営しています。今回の検証によって、広告効果の最大化をはかるためにはプロモーション全体におけるターゲット設定が重要なことと、ストラテジー、配信設計、クリエイティブパワーという3つの組み合わせを工夫することでTikTokをより有効的にマーケティングに活用できることがわかりました。我々は放送局などコンテンツホルダー企業様の視聴者・ファンを増やすための戦略立案や仮説検証・分析をサポートし、今後もテレビとTikTokが強力なタッグを組める可能性があることをデータ起点で探っていきます。

 

Written by DIGIDAY Brand STUDIO(山本千尋)
Photo by 高村瑞穂

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